血液凝固系について

こちらより

近年、フランスのグループ(NOHA ; The Nimes Obstetricians and Haematologists)が不育症と血液凝固の関連について大規模な調査を行い、興味深い結果を発表している。(NOHA study)。これによると、妊娠初期流産を繰り返しているタイプの不育症と、妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症では、その血液凝固異常の傾向が異なる。
 妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症では線溶系の低下が多くみられ(約40%)、その内容はおもにplasminogen activator inhibitor1(PAI)活性亢進であった。具体的には、第12因子欠乏症(9.4%)と抗リン脂質抗体(7.4%)が二大原因として報告されており、われわれの不育症外来でも同様の結果が得られている。第12因子はカリクレインーキニン系の一員であり(図1)、線溶系に重要な役割を果たしている。したがって、第12因子の欠乏は線溶系の低下をひき起こし、血栓症、流産の原因となり得る。また、抗リン脂質抗体に関するわれわれのデータによると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症群ではキニノーゲンを認識する抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)が多く見いだされた。キニノーゲンもまた第12因子と同様カリクレインーキニン系の蛋白であり、それに対する自己抗体が存在すると線溶系を低下させる可能性がある。以上をまとめると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症の血液凝固学的特徴は線溶系の低下とまとめることができる。
 これに対して妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症では、抗リン脂質抗体、プロテインS欠乏症、第5因子Leiden mutationがリスクファクターとして挙げられた。抗リン脂質抗体の病原性はいまだ不明の点が多いが、抗カルジオリピン抗体はプロテインS、プロテインS経路を阻害するという説もあり、妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症の血液凝固学的特徴は、トロンボモジュリン/プロテインC/プロテインS/第5因子系の破綻とまとめることができるかもしれない(図2)。